すごく大好きなほろ苦い大人の映画の秀作「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」を紹介させてください。
1989年のアメリカ映画『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』は、売れない芸人(兄弟のデュオピアニスト)と、彼らにからむ美人シンガーの悲喜を描いた、ほろ苦い、大人の映画の秀作です。
フランク(兄)とジャック(弟)はすでに中年に差し掛かったデュオのピアニストです。
これを実の兄弟のボー・ブリッジス(兄)とジェフ・ブリッジス(弟)が演じているのですが、実の兄弟だからという以上に、いかにも売れない兄弟のデュオピアニストを巧みに演じ切っているところがこの二人の役者さんのすごいところです。
レストランやクラブでスタンダードを演奏して暮らしていますが、すでに80年代のアメリカでも兄弟のデュオピアニストの演奏にまともに耳を傾ける客はいません。
誰も二人の演奏なんか聴いていません。
とうとう馴染みの店からもお払い箱にされてしまいます。
ここで起死回生、女性ヴォーカルを入れようと決意した二人はオーディションの募集広告を出します。
しかし、オーディション当日やってくるのはドベタの女性ばかり約20名。
こりゃダメだと諦めかけた時、最後にミッシェル・ファイファー演じるスージー・ダイヤモンドが飛び込んで来ます。
まったく期待せずに彼女の歌を聴いた二人はセクシーなスージーの歌声にびっくり。
一緒に組むことに。
この映画の全編でヴォーカルにチャレンジしたミッシェル・ファイファーの歌は琴線に触れるすごさです。
彼女の体当たりパフォーマンスがこの映画をかくも秀作にしたのは間違いありません。
スージーを中心にした彼らのパフォーマンスは次第に好評を博します。
やがて、一流のラウンジやホテルからもお呼びがかかるようになり、ついには高級リゾートホテルのニューイヤーイベントで多くの宿泊客の前で連日の歌と演奏を任されるまでに。
このホテルのイベントの中でいろいろあって、フランクは急遽自宅に帰らなければならなくなり、ジャックとスージーで残りのステージを務めるのですが、何となく惹かれあっていた二人はここで男と女の関係に。
以降も彼らトリオの活躍は続くのですが、良いことは長くは続きません。
リゾートホテルのステージを見た業界人からスージーにTVCMソングを歌わないかとスカウトがかかってしまいます。
揺れるスージーですが、ジャックから「引き受けろよ」とあっさり言われてしまいます(実は悔しい気持ちを堪えながら)。
スージーとしては「何を言ってる。俺から離れるな。ずっと一緒にやろう」と言ってほしかったのに。
素直になれないジャックは「代わりはすぐに見つかる」とまで言ってしまいます。
スージーは兄弟と袂を分かつことを決心します。
スージーの抜けたファビュラス・ベイカー・ボーイズは人気も落ちて、また以前のドサ回りに逆戻り。
とにもかくにも生活を支えねばならない兄フランクが取ってきた仕事は、深夜のTVショーのピアノ弾き。失礼きわまりない現場の態度に、とうとうジャックは癇癪を起こしてスタジオを出て行ってしまいます。
駐車場で苛立つジャックに、兄のフランクは必死に言い聞かせますが、ついにここで、兄弟の長年の隠れていた確執まで明らかになってしまいます。
自分のマネジメントで仕事が成り立って言い張るフランクに、ピアノの技量で勝るジャックは自分のピアノの技量でデュオピアニストとして何とか成り立っているとまで言い放ってしまいます。
愛していたスージーを失った上に、兄フランクとの関係も壊れ、デュオピアニストの仕事も失ったジャック。
でも、これがジャックにとって、本当に自分がやりたかったことを見つめ直す良い転機になります。
やがてジャックが本当は一番やりたかったこと=ジャズバーでのソロピアニストでやっていくことを決意したジャックは兄の元を訪れ、傷つけたこと、もう一緒にやれないことを詫び、そんな弟を兄フランクも許して二人は和解します。
そして、ラスト、いまやTVCMソングシンガーとして活躍するスージーの元をジャックは訪れます。
素直になれずに傷つけてしまったことを互いに詫びますが、「いつかまた会える?」と問いかけるジャックにスージーは明確には答えません。
去っていくスージーの姿に、スージー演じるミッシェル・ファイファーが歌う「マイ・ファニー・バレンタイン」のラストソングが。
何というほろ苦いラスト!!!
何という大人の兄弟、男女のシビアな関係を描き切った秀作!!!
「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」にハッピーエンドはありません。
でも、ほろ苦い大人の映画の何とも言えない味わいが残ります。
未見の方は是非ご鑑賞あれ。
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